"K1 ergo"を漕いでいると、たまにスカッとストロークが抜ける。
あれっ?左側のパドリングが...空振りしたように抜ける!
ロープシステムには問題ないようなので、どうもクラッチが空回りしているらしい。
ロープやバンジーコードはトラブってもすぐ分かる。
エルゴメーターのメカで難しいトラブルはクラッチで起こります。
クラッチはロープの引きを軸の回転に変換するプーリーです。
軸との勘合部分に軸をロックするワンウェイクラッチという部品が入っている。
ワンウェイクラッチは羽根の回転方向では軸をロックして、逆方向に回すと空回りする。
その仕組みをメーカーの資料で勉強しました。
ベアリングメーカー NTN株式会社のワンウェイクラッチ関連商品説明より
ワンウェイクラッチが軸に装着されている断面を横から見た断面図ですね。
クラッチの内側に列んでいる金属ローラー(ころ)が、正回転ではスプリングと回転力の両方の力で狭い隙間に追い込まれて、軸に強い力で押し当てられ、軸をロックする。
逆回転するとロックが外れて空転するようになっている。
ロックが効かなくなる不具合は、このローラーの動きが何らかの原因で阻害されて起こります。
NTNの資料によれば、「水、油などの液体、および塵埃などの粉体がワンウェイクラッチ内部に侵入して軸のロックに不具合が生じる」とされています。
NTNのワンウェイクラッチは、かみ合い部に専用グリースを封入しているのでグリースの補給は必要なく、むしろグリースやオイルを追加すると性能に悪影響する可能性がある。
従ってクラッチのメンテナンスではオイルやグリースを使わず、ウェス等で異物を拭き取るくらいしかやることがありません。
NTNは産業用の信頼性が高い製品を作っているメーカーのようですが、エルゴに使われているクラッチはどうなんでしょうね?
リコーの防水コンデジを使って1cmマクロモードで撮影してみると、コロが板バネで押されているクラッチ機構が見えた。
ワンウェイクラッチの内側をきれいなウェスで掃除してみます。
結構汚れていた、不織布の使い捨てウェスで丁寧に拭き取って。
拭き取り → 装着 → 回転 を繰り返したが、改善しない。
クラッチ機構内部に汚れや異物が入った場合はお手上げか?
拭き取ったウェスにはグリースらしきものが付かず、乾いている感じもする。
掃除では改善しなかったので、禁断のグリス継ぎ足しをやってみるしかない。
ダメ元でグリースを足して、それでもダメだったらワンウェイクラッチの交換だ。
このクラッチはエルゴのメーカーから補修部品として購入できる(2個セットで2万円程度)
スプレータイプのソフトグリースで試してみました。
ちょんちょんと数カ所に出してウェスで延ばしました。
着けてみると、おやおや直っちゃった。
経年で潤滑機能が失われていたのでしょうか?
このまま使い続けられれば良いのだけど。
− ワンウェイクラッチに使用してはいけないグリースがある −
※ワンウェイクラッチには極圧性が優れたグリースやオイルを使ってはいけない。
極圧性潤滑グリース:局部的に高い圧力で金属同士が接触している状態においても油膜が切れないよう改善れているため、クラッチの「スベリ」を促進してしまう。
今回使用した「00109 ソフトグリーススプレー」は、特に極圧性を増したグリースではなくソフトタイプなのでクラッチのロックがスムーズに行われると期待できます。
ワンウェイクラッチのメンテナンスには向いているようです。
−オイルとグリースの使い分け−
オイルもグリースも主目的は潤滑と防錆。
グリースはオイルに粘度(とろみ)を持たせて流れにくくしたものです。
オイルだと流出して長期の効果が得られない場面で使います。
グリースの硬さを"ちょう度"という数値で表している。
今回使用した「00109 ソフトグリーススプレー」のちょう度は330で、かなり柔らかい方です。
−グリースは時と場合に応じて選ぶ−
今回はグリースについて、かなり勉強しました。
ワンウェイクラッチのような場所では、ロックを妨げないが摩耗の防止と潤滑の油膜は必要という、相反する要素を解決するグリースが求められる。
低温時でもロックが働くためには柔らかめのグリースを使う。
極圧性と非極圧性のこと、そもそもオイルとグリースの使い分け、グリースの"ちょう度"の考え方など、奥が深かった。
− グリースの寿命 −
一般社団法人潤滑油協会の資料に寄れば、玉軸受けのグリースの寿命推定値は5〜7年と記載がありました。
玉軸受けとクラッチでは機構が違いますが、一般的な軸受けの参考値として、メンテナンスの参考にします。