おじさん達の社会勉強のお時間です。
これから「カーボンナノチューブ」という言葉を耳にすることがあると思うので、すこし予習して若者にうんちくを語りましょう。
医学界の世界的大発見であるiPS細胞を最初に作った山中教授はノーベル賞を受賞しましたが、産業界にもそれに匹敵する大発見があります。
強度は鋼鉄の数十倍の強さを持ち、しなやかさはいくら曲げても折れず、薬品や高熱にも耐え、胴の100倍も電流を流すことができ、シリコンに勝る半導体としてコンピュータを高性能にし、エネルギー問題を解決する可能性まで秘めている。
そんなスーパーな材料「カーボンナノチューブ」が、1991年、日本の飯島澄男氏(現NEC特別主席研究員、産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センターセンター長、名城大学大学院理工学研究科教授)によって発見されました。
(飯島澄男氏はノーベル賞候補だそうです)
その大発見以来、カーボンナノチューブの製造や応用について研究が進められています。
カーボンナノチューブは、その名の通り炭素原子が円柱状に結合して出来るナノサイズのチュ−ブです。
イメージ図(Wikipediaより:電子顕微鏡でもこのようにはっきりと見えないが確認は出来る)

応用としては、自動車のバンパーやテニスのラケットなどで構造材として使われ始めています。
未来の応用としては、超高速のスーパーコンピュータなどもありますが、宇宙エレベーターの構想をご存じですか?
その名の通り、宇宙空間から地上までケーブルを垂らして、それで地上と宇宙を行き来しようというもの。

その最大の難関が、どんなケーブルを使っても自重に耐えられず切れてしまうことでした。
理論上は、地球の重力と自転の遠心力が釣り合ってケーブルは固定可能のようですが、鋼鉄のケーブルでは50km垂らすと自重で切れます。
宇宙エレベーターを作るためには5000kmでも切れない強度が必要だそうです。
しかし、カーボンナノチューブでケーブルを作れたら、宇宙エレベーターができるかもしれません。
課題
製造の難しさがあり、現時点では長いチューブや自由な形状にすることが出来ません。
長さは最大でも数ミリ程度。
したがって、車のバンパーなどに使う場合は材料に細かいカーボンナノチューブを混ぜて強度を向上させるようです。
これがどんな形でも作れるようになれば、産業革命に匹敵する可能性を持っています。
この先の成果が楽しみです。
もっと知りたい人は
ウィキペディアを参照
発見者の飯島さんは電子顕微鏡の研究者でもあり、天才的な洞察力の持ち主のようです。
発見者自らがカーボンナノチューブについて語る(
NECのホームページ)
炭素繊維[カーボンファイバー]との違い
物質の構造が全く異なります。
カーボンナノチューブは純粋に炭素原子のみで構成されるのに対し、炭素繊維はアクリル繊維などの原料を高温で炭化して作った繊維であり、炭素の他にも不純物が混ざっています。
−−−健康被害を及ぼす恐れ−−−
カーボン・ナノチューブ技術を用いた製品は、アスベストに似た健康被害を及ぼす可能性があることが報告されています。
自分で加工して何かに使いたい場合は注意が必要です。
日本では取り扱い者の健康を保全するために、「安全性試験手順書」と「作業環境計測手引き」が NEDO、技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構、産業技術総合研究所らにより作成されています。
−−−カーボンナノチューブのもう一つの顔(2019/04/20 追記)−−−
冒頭で「エネルギー問題を解決する可能性まで秘めている」と書きましたが、ここまでは機械構造的な話で終わっていました。
ここから構造的・化学的性質がもたらす技術革新について分かったことを書きます。
カーボンナノチューブの機械構造以外の優れた特性とは
カーボンナノチューブには媒体中に少量を含有させることで3Dの導電性ネットワークを持つ(つまり立体的な電子の通り道ができる)という性質があります。
ところでカーボン(炭素)は電気を流す導体です。
高性能なリチウムイオン電池にも負極の導体としてたくさん使われています。
またセンサーの微弱な信号を伝送する特殊な信号ケーブルのシールド剤としても使われるなど、産業・生活のハイテク技術を支える材料です。
リチウムイオン電池の構造(東海カーボン株式会社の資料画像より)
このカーボン(炭素)をカーボンナノチューブで代替えするとどうなるか?
従来より少量の材料でさらに高性能な導体として置き換えが可能になります。
リチウムイオン電池は従来より軽く高性能になった(といってもエネルギー密度の限界は超えられないが)。
センサーの微弱な信号を電送する同軸ケーブルも性能が上がった。
さらに究極の二時電池と言われる「リチウム空気電池」(電極にカーボンナノチューブ使用)の開発が進められています。
現行リチウムイオン電池の15倍の性能だそうです。(そんなんできるんですね!)
実際にはカーボンナノチューブの粉体は扱いにくい材料なので、材料メーカーがフィルムに塗布したり液体に混ぜたりして提供しているようです。
−−−潤滑剤としての利用−−−
頂いたコメントで知りましたが、さらにさらに、潤滑剤に混ぜることで優れた潤滑剤になるようです。
民生用の市販潤滑剤スプレーなんかも出ていました。
このスプレーはどうなんでしょう?使ったことありませんが。
使われている例として載せました。
構造的にはナノサイズの硬い強靱な物という認識ですが、どうして潤滑の役目をするのだろうか?
疑問に思ったので潤滑の仕組みを調べてみます。
潤滑剤というとまずオイル、グリ−スが頭に浮かびます。
石油由来の油、つまり滑らかな液体。
ここに敢えて小さな固体を入れるのははぜか?
潤滑剤を調べてみると、液体(オイルなど)、固体(フッ素スプレーなど)、液体・固体混合タイプ、グリース(液体中にスポンジのような成分がある物)と、種類があることがわかりました。
金属表面は滑らかに見えても細かい凹凸があり、金属同士が接触して動くと凹凸のために摩擦やきしみ音が出る。
潤滑剤は金属間に入り込んで金属の細かな凹凸間に隙間を作るそうです。
フッ素は滑り性のある物質ということは知っていましたが潤滑剤の主原料にもなっていたんですね。
では改めてなんでそこにカーボンナノチューブなのか?
機械可動部の潤滑剤は注入後しだいに減り、金属間の隙間がなくなってしまいます。
潤滑剤が僅かに残っていて隙間が無い状態を「境界潤滑」と言うそうです。
境界潤滑というのは潤滑剤が枯渇して金属同士が擦れ合う悪い状態ですね。
潤滑剤の中に優れた滑り性の物質があれば、金属同士が圧を持ってぶつかり合っても、少量の滑る物質によって摩擦を小さくできるようです。
潤滑剤の中にこのような少量でも滑り性を向上させる添加物をいれると「境界潤滑」になってもある程度の潤滑ができるということです。
この添加物としてカーボンナノチューブが優れているらしいんですね。
ナノダイヤモンド(粒子径は4〜6nm程度で最も小さなダイヤモンド粒子)なんかも使われています。
ダイヤみたいな硬くて強い物が滑りに良いのか?
逆に金属を削るんじゃないの?
と思いますよね、普通。
ところが重要なのは金属同士の直接接触を防ぐことが機能のポイントなんだそうです。
イメージ的には重い物を運ぶときのコロを想像すれば良いのかな?
ナノサイズの世界になると、普通サイズではぶつかる、削れる、ガタつくといった性質が消えて、滑る、転がるといった性質に変わるのでしょうか?
不思議な世界です。